Wednesday, April 15, 2020

『ニューヨーク・タイムズを守った男』

 社内弁護士は、日本でもこの20年間にかなり増え、その存在意義が知られるようになってきました。私も、東芝で知的財産法務担当として勤務し、その後、法律事務所から三井物産に社内弁護士として出向して、企業内で社内弁護士が果たす役割の大きさを実感しました。ただ、社内弁護士が日々の企業活動においてどのような法的判断を行っているかということが当事者により語られることは、極めて稀です。そのため、社内弁護士の面白さややりがいが外部には見えにくいだろうと思います。
 先月、ベールに包まれた社内弁護士の活躍ぶりを自ら詳細に語ったデヴィッド・E・マクロー(David E. McCraw)『ニューヨーク・タイムズを守った男』(原題“Truth in Our Times: Inside the Fight for Press Freedom in the Age of Alternative Facts”)が毎日新聞出版から出版されました。原題もとても良く考えられた題なのですが、社内弁護士の果たす役割を端的に示す日本語訳の題も、読者の関心を惹く、分かりやすい題ではないかと思いました。
 米国では、トランプ政権の誕生により、マスコミは国民の敵呼ばわりされるようになり、報道の自由を守り、真実を追求しようとする活動自体に逆風が吹いている状況にあります。そういう困難な状況下でのマスコミの社内弁護士の苦闘の記録が公になったことは大変価値があり、読み応えがありました。本書は、序章とあとがき以外に、14の章からなり、マスコミの社内弁護士の守備範囲が意外に広いことにも驚かされます。第14章に取り上げられているトランプ候補の代理人による記事の撤回要求ニューヨーク・タイムズの社内弁護士(本書の著者)による回答はウェブ上に公開されていて、弁護士間の応酬として興味深いです。政府とマスコミの緊張関係、ネット上で動く世論、情報公開請求に対する存否応答拒否処分など、日本にあてはまる部分も少なくなく、日本語訳の出版も時宜にかなったものだと思います。
 社内弁護士がどういうことを考えて、仕事に取り組んでいるのかを垣間見ることができる良書なので、社内弁護士に関心を持っている人にお薦めします。